持っている知識を材料にして、自分で答えをつくれるか
もちろん、開成を受験する以上、理科も社会も十分な基礎知識は必要です。ただ、2022年度から2026年度までの問題を見ていくと、開成の難しさは、単純に「難しいことをたくさん知っているか」だけでは説明できません。
社会では、覚えてきた知識を、目の前の問題に合わせてつなぎ直す。理科では、問題文や図に書かれた情報から、「これはどういう仕組みなのだろう」と考える。
つまり開成では、知っている答えをそのまま取り出すだけではなく、持っている知識を材料にして、自分で答えをつくれるか。そこをかなり見ているように思います。
開成社会は、「知っていること」をつなげて答える
社会の勉強では、たくさんのことを覚えます。地形や産業。歴史上の人物や出来事。政治の仕組み。国際社会のルール。普段の学習では、それぞれを分けて整理しながら覚えていきます。ところが、開成の社会では、それらが別々のままで終わりません。
ある年には「医学」という一つのテーマから、古い時代の日本、近代、昭和へと話が移っていきます。別の年には、朝鮮半島と日本の関係を、古代から現代までたどる問題が出ています。
広島を題材にした問題では、地形だけを見るのではなく、城の歴史、戦争、平和へと話が広がります。
経済を扱った問題でも、「関税」という言葉の意味を知っているだけでは終わりません。企業や消費者にどんな影響が出るのか、為替が動くと価格はどう変わるのか、と先まで考えさせます。つまり、「これは歴史の問題」「これは地理の問題」と、きれいに分けてはくれないのです。
普段は縦に覚える。でも開成では横につなぐ
子どもが社会を学ぶときは、まず知識を整理する必要があります。鎌倉時代を習う。室町時代を習う。江戸時代を習う。地理なら、地域ごとに地形や産業を覚える。公民なら、国会、内閣、裁判所などを整理して学ぶ。そうやって知識の棚を一つずつ作っていくのが、普段の勉強です。
ところが開成では、その棚ができたあとに、「今回の問題に必要なものを、いろいろな棚から持ってきてください」と求められます。
だから開成社会は、「縦に覚えて、横につなぐ社会」と考えると、かなり分かりやすくなります。
ステップ☆ナビで2022〜2026年度の開成社会を284の答えに分けて分析すると、「つなぐ」ことが思考の中心となるものは144、全体の50.7%でした。また、歴史に関係するものは128、45.1%ありますが、一つの時代だけで完結するというより、テーマに沿って複数の時代をまたいで使われる傾向があります。
資料を読んだり、複数の分野を行き来したりする問題そのものは、難関校では珍しくありません。その中でも開成では、一つのテーマを入口にして、離れた時代や分野の知識を広い範囲から呼び出すことが特に目につきます。
「社会は覚えているのに、開成になると取れない」のはなぜ?
ここは、ご家庭から見ると分かりにくいところです。一問一答ならかなり答えられる。歴史用語も覚えている。塾のテストでも社会はそれなりに取れている。それなのに、開成の過去問になると点が伸びない。そうすると、「まだ暗記が足りないのかな」と思いたくなります。
もちろん、本当に知識が足りない場合もあります。でも、別の可能性もあります。知っているけれど、その知識を使う場面に気づけていない。
たとえば「日清戦争について説明して」と聞かれれば答えられる。でも、朝鮮半島をめぐる長い歴史の中で問題が進んでいるときに、「あ、ここで日清戦争の知識を使えばいいのか」と自分から取り出せない。これは「知らない」とは少し違います。だから開成社会では、覚えたあとに、「これは、ほかの何とつながっている?」と考える練習が必要になります。
なぜ開成は、こんな社会の問題を出すのだろう
少し入試対策から離れて考えると、これはそれほど不思議なことでもありません。現実の社会は、地理・歴史・公民という三つの科目に分かれて存在しているわけではありません。今の国際関係には、それまでの歴史があります。都市が発達した場所には、地形や交通の理由があります。経済の制度を変えれば企業が動き、商品の値段が変わり、私たちの生活にも影響します。本当の社会は、全部つながっています。
開成自身も社会科について、単なる知識の詰め込みや暗記で終わらず、意見を考える授業、調査や発表、地図や統計資料を使った学習を重視すると説明しています。高校では、世界と日本、歴史と政治経済の「つながり」を意識した学習を掲げています。学校が「この教育方針を測るために入試問題を作っています」と説明しているわけではありません。ただ、入試で見えてくる「つなげて考える社会」と、入学後の社会科の学び方には、かなり自然なつながりを感じます。
開成理科は、「何を知っているか」だけでは始まらない
では、理科はどうでしょうか。普通の問題なら、「これはてこの問題だな」「これは電気回路だな」と、何を使えばいいのかが比較的分かりやすいことがあります。開成では、それより前に一仕事必要になる問題が目立ちます。
問題文を読む。図や表を見る。実験の結果を見る。そして最初に、「そもそも、ここでは何が起きているのだろう?」と考えなければなりません。
ステップ☆ナビで2022〜2026年度の開成理科を170の答えに分けて分析すると、基本知識だけでなく、数量の関係を考える問題、図や位置関係を捉える問題、実験結果から考える問題など、複数の力が繰り返し求められています。開成理科では、覚えている解き方を当てはめる前に、問題の中で何が起きているのかを理解する必要があるのです。
たとえば、こんな問題です
見慣れない装置や現象が問題に登場したとします。子どもが以前にその装置を見たことがあるかどうかは、それほど重要ではありません。問題文には、「この部分が動くと、こちらはこのように変化する」「この条件では、実験結果はこうなった」といった手がかりが書かれています。
それを一つずつ読んで、「なるほど。これは、こういう仕組みで動いているのかもしれない」と考える。そのうえで、「では、この条件を変えたらどうなる?」「この量が増えたら結果はどう変わる?」と先へ進んでいきます。つまり、最初から答えの出し方を知っている必要はありません。むしろ、与えられた情報から、答えの出し方そのものを考える。ここが開成理科のおもしろさであり、難しさでもあります。
「基本問題はできるのに、開成になると手が止まる」
これも、保護者から見ると分かりにくい状態です。てこの基本問題は解ける。電気回路も解ける。植物や天体の知識もある。それなのに、開成の問題になると、長い問題文を読んだところで手が止まってしまう。すると、「やっぱり、もっと難しい問題集が必要なのかな」と思いたくなります。
でも、その前に確認したいことがあります。本当に理科の知識が足りないのでしょうか。それとも、知っている理科を、この問題のどこで使えばいいのか分からないのでしょうか。この二つでは、対策が違います。
基本的な知識が曖昧なら、基礎に戻る必要があります。一方、基本は分かっているのに使えないのであれば、難しい公式を増やすより、問題文を読んで、「何が起きているのか」を自分で整理する練習の方が必要です。
なぜ開成は、こんな理科を出すのだろう
科学は本来、「習った問題と同じ問題を解く」ことから始まったものではありません。何か不思議な現象がある。よく見る。何が違うのか考える。「こういう仕組みではないか」と予想する。確かめてみる。違っていれば、考え直す。そうやって自然の仕組みを理解していくものです。
開成の理科教育でも、中学から物理・化学・生物・地学をそれぞれ専門の教員が担当し、教科書にとらわれない授業や、自主的な実験・観察を重視しています。中学終了時までに「基礎知識・洞察力」を養うことを目標に掲げています。そう考えると、開成理科が聞いているのも、「この問題を前に解いたことがありますか?」より、「初めて見るものを前にしたとき、あなたは何から考えますか?」に近いのではないでしょうか。
社会と理科、やっていることは実は似ている
ここまで見ると、社会と理科には共通するものがあります。社会では、覚えてきた知識を、その問題に必要な形へつなぎ直す。理科では、目の前にある情報を使って、答えを出すための仕組みを考える。どちらも、覚えた答えを、そのまま出せば終わりではありません。
棚に入れた知識から、今回必要なものを呼び出す。
書いてあることから、答えの出し方そのものを組む。
ほかの難関校と比べてみても、この知識や情報を自分で組み直して答えまで持っていくことは、開成の理科・社会に共通して特に目につく特徴です。だからステップ☆ナビでは、開成の理社を、「答えを知っているか」だけではなく、「答えをつくれるか」を見る試験と捉えています。
ただし、「考える力が大事だから暗記は後回し」ではない
ここは、かなり大切です。「なるほど。開成では考える力が必要なのか。だったら暗記ばかりしていても仕方ない」となってしまうと、少し違います。
社会で知識をつなぐには、そもそも知識が必要です。理科で仕組みを考えるにも、基本的な原理を知らなければ始まりません。料理にたとえるなら、いくら「自分で料理を作る力」が大事でも、冷蔵庫が空っぽではどうにもなりません。
開成自身の教育理念でも、記憶する力と思考する力の両方が必要で、記憶は思考を育てる土台だという考え方が示されています。そのうえで、自分で注意・観察し、工夫し、推論・思考することを重視しています。現在の教育課程でも、基礎学力を重視したうえで思考力や創造性を育てることが掲げられています。
つまり、暗記か、思考か、ではありません。まず知る。そのうえで、知っていることを使って考える。この順番です。
開成が見たいのは、「自分で考え始められる子」なのかもしれない
ここから先は、過去問と学校が公開している教育方針を重ねた、ステップ☆ナビの考察です。
開成が入試で見ようとしているのは、たくさん知っている子だけではない。知識を持っている。そのうえで、「これは、あの話とつながっているのでは?」「どうして、こんな結果になるんだろう?」「もし条件が変わったら?」と、自分から考え始められる。そんな子なのではないでしょうか。
開成は現在も、建学以来の精神として「自主自律」や「進取の気性と自由の精神」を掲げています。教えてもらった答えを正確に返すことができる。そのうえで、教えてもらったものを材料にして、自分でもう一度考えてみる。開成の社会と理科を見ていると、そんな姿勢を大切にしているように感じます。
では、家庭では何をすればいいのか
ここまで考えると、開成対策だからといって、難問ばかりを増やす必要はありません。
社会なら、覚えたあとに、「これって、ほかの何と関係していると思う?」と少し広げてみる。たとえば日清戦争を覚えたなら、年号や条約だけで終わらず、「そもそも、なぜ朝鮮半島をめぐって争ったんだろう」「そのあと日本と中国の関係はどうなったんだろう」と考えてみる。
理科なら、正解した問題でも、「どうして、この答えになるの?」と考えてみる。さらに、「じゃあ、この条件が変わったら?」と一つだけ変えてみる。特別な難問でなくてもできます。むしろ、こうした小さな積み重ねが、「覚えたことを使って答えをつくる」練習になります。
一問一答と過去問の間に、抜けやすいところがある
開成対策の難しさは、ここにあると思います。一問一答や普通の問題集では、知識や基本的な解き方を身につけます。過去問では、それを使って開成の問題が解けるかを確かめます。でも、その間に、「覚えたことを、開成の問題でどう使うのか」という段階があります。
社会なら、どの知識を取り出して、何とつなげればいいのか。理科なら、問題文のどこを見て、何が起きていると考えればいいのか。過去問の解説を読めば、「なるほど」と思うことはできます。でも、次にまったく違う題材が出たとき、自分で同じ考え方ができるかは別です。ここが、意外と練習しにくいところです。
本ページで紹介している過去問の分類や出題傾向は、ステップ☆ナビによる独自分析です。「開成がどのような力を見ようとしているか」については、過去問に繰り返し現れる特徴と、学校が公開している教育理念・教育内容を照らし合わせたステップ☆ナビの考察であり、開成中学校・高等学校が入試問題の出題意図として公式に説明したものではありません。


